デジタル一眼を買った初心者が最初にすべきこと:その4 口径食消失F値を知る

公開日: : 最終更新日:2014/08/07 ブログ, 写真・カメラ, 開発・自作アプリ

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こんにちは、Iwasaki です。
 

前回までに、単焦点レンズを使って絞り優先モードに設定し、自分でF値をコントロールすれば、ボケ表現やパンフォーカス表現ができるようになることをお話しました。

また、絞るときには手ブレが起きないように気をつけて、手ブレ限界よりスローシャッターになりそうなら、ISO感度を自分の許容範囲内で上げたり、三脚を使ったりすればいいこと、極端に絞りすぎると回折ボケが起きてしまうことなどもお分かりいただけたと思います。

さて今回は、絞りを開きすぎたときのデメリットについて書きます。

ちなみに、絞りを開くメリットについては、
・ボケ表現ができる
・シャッタースピードが速くなり、手ブレや被写体ブレが起きにくい
・ISO感度を下げられるので、画質が向上する
などであることは、すでにお分かりのことと思います。

さて実は、絞りを開けすぎたときのデメリットは、画像の細かな部分なので、初心者には分かりづらいと思います。たとえば、前々回にテスト撮影してもらって、絞り開放から2段づつ絞った写真を、前回比較しましたが、それらを見比べても差は見分けられないかもしれません。

ということは、ブログに使う程度のサイズであれば、ほとんど気にする必要はないとも言えます。

しかし、初心者を脱して中上級者を目指すなら、避けては通れない部分ですので、ちょっと難しいでしょうが、テスト結果を見るだけでもいいので、お付き合いください。

まず、ピント合わせがシビアになります。
たとえば、大口径の中望遠レンズでポートレートを撮る際、モデルが斜め向きだと、右目にピントを合わせると左目はボケてしまうくらい被写界深度が浅くなります。最近はオートフォーカスの精度も上がったし、顔認識などの便利な機能もありますが、カメラまかせでは右目だけにピントを合わせるのは難しいでしょうから、狙ったところにピントを合わせられる方法を、自分のカメラで試行錯誤して見つけないといけないでしょう。
 

それ以外の開きすぎのデメリットを見るには、以前のテスト撮影より もう少し厳密なテストをして、モニター上でピクセル等倍かそれ以上拡大して比較する必要があります。

しっかりした三脚にカメラを固定し、指でシャッターボタンを押すのではなく、レリーズ(またはリモートコントローラー)というアクセサリーを使ってシャッターを切ることで、手ブレを防ぐと同時に構図が変わるのを防ぎます。
そのような道具がない場合は、適当な台の上にカメラを置いて、セルフタイマー(2秒と10秒に設定できるなら2秒)モードにして、指でシャッターボタンを押したあとカメラから手を離して撮ります。
 

レンズテスト用の被写体としては、無限遠点光源が理想的です。夜空の星が一番いいのですが、暗いのと日周運動をするのが玉に瑕です。赤道儀があれば追尾できますが、持ってない人がほとんどなので、ISO感度を3200くらいに上げればいいでしょう。

次に適しているのは夜景の街灯です。できるだけ遠くの街灯であれば、ほぼ無限遠点光源になります。

室内でやりたい場合には、LEDライトがオススメ。点光源に近づけるために、シャープペンシルで穴を開けたアルミホイルで前面をカバーします。

レンズテストを屋外でやるのはハードルが高いので、室内でLEDを使ってやることにしましょう。まず、調べたいレンズをカメラに付けて、カメラを三脚に固定し、部屋を薄暗くして、LEDの光が画面の隅に来るように向きを調節します。カメラの露出モードをマニュアル(M)にして、シャッタースピード1/30秒程度、ISO100程度に設定します。条件は LEDの明るさやカメラによって変わりますのが、そう厳密ではないです。

次に、ピントをLEDより手前にして LEDの点光源をボケさせます。マニュアルフォーカスでないと難しいかもしれません。画面の短辺の1/20ほどのボケ円ができれば十分です。以上の条件で、絞り開放から1段刻みで絞ってF11くらいまで撮影します。

もうひとつのテストは、LEDにピントを合わせます。
最初に絞り開放、シャッタースピード1/500秒程度で撮り、次に絞りを1段絞ってシャッタースピードを1段遅くして撮ります。これをF11くらいまで繰り返します。

さて、最初のテスト結果から見てみましょう。

B50F4-11

↑ ピクセル等倍(100%)表示の切り出し画像です。
テストしたレンズは、キヤノンの EF 28-135mm F3.5-5.6 IS の 47mm域です。レンズのアラが見やすいように、あえてズームを選びました。ボディはフルサイズで、点光源を右下の隅に置きました。
 

開放のF4では、ボケ円がラグビーボール型になっています。
1段絞ったF5.6でも変な形です。
2段絞ったF8から、やっと6角形になっています。

これから何が分かるのか?

すぐ分かること。
絞り羽根の枚数が6枚ということ。もっといいレンズなら、奇数の7枚や9枚です。羽根の数が奇数で多いほど、光芒やフレアが目立たないからです。

もっと大事なこと。
理想的なレンズなら、開放で真円、絞り込めば羽根の数の正多角形になります。このレンズでも、点光源を画面中央に写せば 確かにそうなりますが、四隅に写すと開放近くでは、そうなっていません。

開放近くでボケ円が真円または正多角形にならない現象を口径食といいます。

斜めに入射した光線が、鏡筒のどこかで遮られる(ケラレる)ことで起こります。上のF4とF5.6の画像では、画面左上の弧が鏡筒の影です。

口径食の何が悪いのか?

例えば、キラキラ光る海や夜景をバックに、ポートレートをボケ表現で撮ると、バックに綺麗な円形のボケがちりばめられたような写真になりますが、口径食が起きるほど絞りを開けると、画面周辺のボケがラグビーボール型になってしまい やや残念な結果になるわけです。

もうひとつの悪い点。
口径食が起きると、遮蔽された面積のぶんだけ光量が減ります。実際の写真で見ると、周辺に近づくほど暗くなります。青空や白紙を撮ると顕著です。これを周辺光量低下とか周辺減光と呼びます。ボケ表現だけでなく、パンフォーカス表現でも問題になります。

上のレンズでは、2段絞ったF8から口径食が消失し、周辺光量低下もなくなります。これを口径食消失F値と呼びます。つまり、ラグビーボール型のボケや周辺光量低下がイヤな人にとって、実用的な開放F値は口径食消失F値なんです。

しかし、口径食消失F値はカタログには書いてありません。いろいろなレンズで口径食消失F値を調べてみたところ、開放F値から1段〜4段と非常に幅がありました。

なぜでしょうか?

答は、コストと重さです。

上のレンズの場合、レンズの直径を2倍にすれば、口径食は起きないでしょう。しかし、そうすると面積が4倍になって、価格も重さも約4倍になってしまいます。ユーザーから見ても、そんな重くて高いレンズには手がでにくいですよね。メーカーの妥協の度合いが、開放F値と口径食消失F値の開きというわけです。

たとえるならば、カタログの開放F値は履歴書の学歴みたいなもんで、本当の実力は あくまで口径食消失F値なんです。それより小さいF値は、オマケと割り切るべきでしょう。

みなさんも、ご自分のレンズの口径食消失F値をぜひ調べてみてください。メーカーの本気度が分かると思いますよ。
とはいえ、口径食は、点光源を使ったボケ表現をしない限り、そう目立つものではありませんし、周辺光量低下も、均一な被写体でなければ、そう気になりません。オマケも使いようというわけです。

また、周辺光量低下だけなら、撮影後に画像処理ソフトで補正することも可能です。最近のカメラ(NEXなど)には、カメラ本体で周辺光量低下を補正する機能がついている機種もあります。

もうひとつの解決策は、APS-Cなどフルサイズより小さいカメラに、フルサイズ用のレンズを付ける方法です。これなら、周辺光量低下も口径食も、ほぼ開放F値から起きない場合が多いでしょう。フルサイズで撮って後でトリミングしてしても同様です。
 

次は、ピントを合わせたテストの結果です。

S50F4-22

↑ 200% 表示です。
点光源が点として写っていませんね。
「真実を写す」のが写真なら、点は点として写らないといけません。
ところが実際には、完璧なレンズは存在しません。
さまざまな収差が出てしまうからです。

代表的な収差に、色収差とザイデルの5収差(球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差)があります。

多くの収差は、画面周辺部ほど目立ちますが、球面収差は画面中心部でも同じように起きます。

また、球面収差、コマ収差、非点収差は、絞り込むことで軽減されます。
つまり、絞りを開きすぎると収差が目立ってしまうわけです。

このレンズでも、F4とF5.6では、点像がぼんやりと膨らんでいます。F8以降は、右下方向にコマ収差がいくぶん残っているものの、シャープな点像に近いと言えるでしょう。

このように多くのレンズで、開放から2段ほど絞らないとシャープな像にはなりません。偶然にも口径食消失F値と同じくらいですね。ここにもメーカーの妥協点が見えているわけです。収差についても口径食と同様に、自分が許容できる最小F値、いうなれば収差許容F値を調べておくことをオススメします。

このように、開放F値付近は収差のために像が甘くなりますので、ブログ程度のサイズなら気にする必要はないでしょうが、大サイズで出力するならオマケと考えたほうが無難なようです。

要は、自分が使うレンズそれぞれについて、想定される出力サイズに応じて、どのF値までなら開いていいのかを、口径食と収差の2つの観点から、自分で決めないといけないわけです。

そのためには、自分が撮った写真を吟味する習慣をつけましょう。また、余裕があるときには、絞り、シャッタースピード、ISO感度などの撮影条件、特に絞りを何段か変えて撮っておいて後で比較すると上達が早まると思います。
 

以上、初心者がてっとり早く一眼っぽい写真を撮れるようになるための解説を、4回にわたって解説してみました。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
 

まとめ

・一眼を使うなら、単焦点レンズを付けて絞り優先モードに設定し、自分でF値をコントロールすることで、ボケ表現とパンフォーカス表現をモノにしましょう。

・自分のレンズの口径食消失F値と、収差許容F値を調べておいて、明確な目的がないときは、それ以上絞りを開ないようにしましょう。

・絞りのメリット・デメリットを理解して、目的に応じたF値が決められるようになれば初心者卒業です。
 

てことで、ではまた!

 

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カテゴリ: 写真/ビデオ, ユーティリティ
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